発展途上国インフラ整備の新たな光
 ~微生物燃料電池技術の開発~

トウ ナロン 先生

地域環境科学部 生産環境工学科

トウ ナロン 先生

地域環境科学部 生産環境工学科

発展途上国インフラ整備の新たな光  ~微生物燃料電池技術の開発~

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発展途上国が各地域の財政で導入できる 汎用性の高い微生物燃料電池技術を創造

途上国の農村地域に電力と下水処理技術を提供したい

私は現在、「微生物燃料電池技術」を開発しています。母国のカンボジアには、電力供給がなく、かつ下水処理もできない農村地域が多く、深刻な生活環境のなかで暮らしている人々が大勢います。私自身も農村地域の出身であり、子ども時代は電気が使えず、その辛さを経験してきました。そうした途上国の農村地域に、発電と下水処理が同時に行える微生物燃料電池技術を広めることが私の夢であり、それを実現させるため、この研究を始めました。

 

微生物燃料電池の仕組みをひと言で説明すると、有機物を燃料にして微生物の代謝を利用する発電装置、ということになります。有機物はたとえば生ゴミや下水、河川の汚泥にも存在します。また、途上国の戸外のトイレには尿水や排泄物があり、これも燃料になります。こうした生物由来の有機物(バイオマス)を微生物が分解する際に電子が生まれ、装置内に電極を設置すれば、電子が流れて発電する、という仕組みです。発電と下水処理が同時に行える優れたシステムであり、コスト的にも非常に廉価な技術であるため、途上国にも導入しやすいと考えています。

 

 

 

財政が厳しい国や地域には低コストの新システムが必要不可欠!

エネルギー問題については、日本をはじめ、世界各国で再生可能エネルギーのインフラ整備が加速しています。しかし財政が厳しい途上国、特に農村地域では、資金不足のためにインフラ整備が進まず、SDGsの「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」という目標を2030年までに実現するには、様々な課題に直面せざるを得ない状況になっています。

 

そうしたなか私は、世界のエネルギー利用について、改めて考える必要があると思っています。たとえ再生可能エネルギーの利用だとしても、システムの主な目的と別に利用できることを積極的に考えるべきであり、システムを徹底的(多目的)に利用する方法を構築することが重要であると私は考えています。たとえば、太陽光発電に関しては発電と同時に土壌・水質浄化が可能になる、太陽光と微生物燃料電池技術を組み合わせた新型発電システムを開発しています。

 

そして財政が厳しい国や地域がSDGsの目標を実現するには、太陽光や風力といった従来のインフラ整備の考え方に加え、途上国が各地域の財政で自立できるような、新しいシステムが必要不可欠といえるでしょう。

 

微生物燃料電池技術は、有機物を燃料にして微生物の代謝を利用する発電装置ですから、莫大な資金を投入して発電所を設けたり、送電ケーブルを敷設する必要がありません。また応用技術によって、植物の肥料成分として知られるリン資源の回収、あるいは有機物の堆肥化もできるなど、汎用性に富んだ経済的な技術なのです。さらにもう一点、製鉄所から出る廃棄物の「高炉スラグ」に残っている鉄分を微生物に与えると、微生物は喜んで発電量を増やすことができます。人間の体に鉄分が必要なように、微生物にも鉄分が有効である、ということになります。

 

途上国が実際に微生物燃料電池技術を活用した場合、コストが廉価なため、各家庭で一台ずつ、という単位での導入が可能です。そして自分が出したゴミを自家システムで処理し、そこからクリーンなエネルギーを回収して自宅で電気を使い、リンや堆肥を自分の田畑へ還元することができます。微生物燃料電池技術は、途上国が自立して活用できる循環型の技術であり、インフラ整備においては新たな光になる存在といえます。近い将来、クリーンエネルギーを途上国へお届けできると信じています。

 

貧困層の人々を電気の利用や下水処理ができない生活から解放できる

世界人口のおよそ4分の1が電気のない生活、2分の1が下水処理できない生活を送っている厳しい状況がありますが、私が開発しているこの技術であれば、貧困層の人々を、電気がなく下水処理もできない苦しい生活から解放させることができるでしょう。実際の発電量については現在、たとえば子ども部屋の電気スタンド、あるいは玄関ポーチのライトなどに対応する電力供給が実現しており、将来的には発電と下水処理が一体化された大型システムの普及が途上国で進むことを期待しています。そうした広がりがSDGsを達成させる第一歩になると思っています。

 

私の研究の基本的な概念は、廃棄物と微生物の力で新たなイノベーションを起こし、途上国などが抱える課題の解決を目指す! ということです。そして廃棄物はゴミではなく宝である! ということも、研究を通してぜひ知っていただきたいと思います。

 

微生物燃料電池技術の農業分野への応用実験の様子

高炉スラグを用いた新たな微生物燃料電池の発電システム

学生時代に来日して早19年、カンボジアへこの技術を届けたいという夢の実現が近づいている!

Profile

トウ ナロン 准教授

地域環境科学部 生産環境工学科 農村環境工学研究室

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