カラフルザリガニを作出
幅広い可能性
武田 晃治 先生
教職課程
武田 晃治 先生
教職課程
”カラフルザリガニを作出 幅広い可能性
”
カラフルザリガニを作出
幅広い可能性
教職課程
教職課程
”カラフルザリガニを作出 幅広い可能性
”教職課程で、教員免許取得を目指す学生たちに向けた授業や指導を行っています。私の立場からSDGsの目標である「質の高い教育をみんなに」を実現させるためには、教科書に書かれている図や文字だけのイメージしにくい内容を、みんなが理解しやすくなるように工夫することが求められます。そのためにわかりやすい実験教材を作ったり、授業開発をしたりすることが私の仕事です。
今、取り組んでいるのは「カラフルザリガニ」を使って理科で学ぶ食物連鎖(生物濃縮)を視覚化する研究。アメリカザリガニは、従来の理科教育のカテゴリの中では「水辺の生き物、甲殻類の体のつくり」など、飼育・観察教材として扱われていました。この研究ではSDGsの「質の高い教育をみんなに」という目標ともリンクする、誰もが自らの体験を通して学べる教材として、アメリカザリガニの「色」をテーマにしています。
当初、教材づくりのために食べたもので体の色が変わる生き物を探していました。最初に目を付けたのは鮭。日本人が最もよく食べている魚であり、私たちにとってとても身近な存在です。でも鮭は簡単に飼えるものではありませんし、捌かなければ身の色を確認することはできません。飼育を前提とした学校教材としては扱いにくく、もう少し簡便で、かつ子どもたちにとって身近な生物……ということで浮上したのがアメリカザリガニでした。
一般的な赤色ではなく、鮭同様、自ら赤色の色素を作ることのできない白色のアメリカザリガニに、様々な色のついた餌を与えてみました。当時、白色ザリガニを餌で黄色くする方法は既に知られていましたが、この実験から青色、水色、ピンク色、オレンジ色、赤紫、黄緑色など様々な色彩の新たなカラフルザリガニの作出に成功しました。そこで研究を重ね、脱皮殻と餌に含まれる色素を比較するといった動物色素に着目した新たな実験教材を作ったのです。
教材の対象年齢は幅広く、様々な色に体色が変わるアメリカザリガニの観察だけなら未就学児から活用できますし、小学2年生の生活科の中で取り入れることも可能です。本来のテーマである食物連鎖という観点では小学校高学年や中学生が対象になりますし、色のもととなる色素やその発色原理を探究する発展内容であれば高校生物の実験や、大学の遺伝子・タンパク質研究の対象にもなります。
この教材の優れた点は、科学教育以外の視点からも有効活用ができることです。たとえば環境保全の分野から考えてみると、アメリカザリガニは緊急対策外来種として日本では積極的な駆除対象生物とされ、その多くは土に埋められ殺処分をされています。
今では悪者扱いのアメリカザリガニですが、日本に輸入し、管理を怠ったのは、すべて人間の責任です。教育の中においては、生き物は最後まで責任をもって飼わなければいけないということ、殺処分するだけでなく有効活用のあり方を考え、そしてこれからの環境やそこに生息する生物と人間との共生について、子どもたちと共に議論することもとても大切なことです。
さらには世界規模で見てみると、アメリカザリガニは食用として利用されています。日本でも徐々に昆虫食への意識や関心が高まっていますが、日本の食料自給率の低さを考えても、アメリカザリガニをただ殺処分してしまうのではなく食用、家畜利用などに転換し、今後の世界の人口増加に伴うタンパク源確保の観点からも、有効活用する考え方の重要性はこれからますます高まるでしょう。
このようにカラフルザリガニを使った教材は、科学に対する子どもたちの興味関心を惹き付けるきっかけになるだけでなく、SDGsが掲げる様々な課題にもリンクしています。最先端の科学教育としての側面に加えて、様々な視点から発達段階ごとのテーマに合わせて活用でき、質の高い教育につながる「生きた教材」なのです。
今の農大生を見ていると、SDGsに対して興味や関心を持っている学生はとても多いです。でも、自分が具体的に何にどう取り組んだらいいかはまだわからないという人が多いようにも思います。
特に私は教職課程で、学校の先生を目指す学生たちに対して指導をしていますから、自分が先生になったときに「子どもたちに何を問いかけるか」ということを、今から学生に意識させることを大切にしています。学生たちには農大で今自分が行っている研究が何に役立っているのか、SDGsの目標とどうつながっているのかまで、日頃から深く考えられるような学生へと成長していってほしい。そして忍耐強く常に考え、学び続ける先生になってほしいと願っています。
これからの時代、大事なのは子どもたちに考える力を持ってもらうことです。だからこそ指導者である先生も考え続けなければいけません。今の日本の教育では、覚えなければいけないことがたくさんあります。でも覚えたことが私たちの生活の何とつながっていて、何に生かせるのかまで考えられる子どもは多くはありません。
ですから、これから教員になる学生たちには「考える習慣を身に付ける授業」を目指してほしいと話しています。子どもたちが自ら考えて新たな疑問が生まれたときに、「こういう手法で調べるといいよ」など、具体的な解決策や考えるためのヒントを示せる先生になってほしいですね。そのとき、東京農業大学で一生懸命に考え、取り組んだ自身の研究や学びが必ず役立つはずです。
白色のアメリカザリガニに色のついた餌を与えると、カラフルなザリガニが作出できます
「生き物から学ぶ」ための生きた教材として、生物学的な特徴がわかりやすいフクロウを飼育しています。