先生のSTORY

生物産業学部
自然資源経営学科

小川 繁幸 先生

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Tokyo Nodai Story
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持続可能な社会の実現にむけた都市と農村の関係の再構築を 「農業×ファッション」から目指す

都市と農村の関係の再構築を「農業×ファッション」から目指す意図

現在、私が取り組んでいる研究は、持続可能な社会の実現にむけた都市と農村の関係の再構築です。より具体的には、農業の新たな価値表現を通じて、農業・農村の活性化にチャレンジしています。

昨今、持続可能な社会の実現にむけて、SDGsの推進が社会的な潮流となっていますが、その社会の実現において重要なのは、都市と農村の(物質的・経済的な)循環の再構築にあると考えています。

自然の恵を得て収穫された農作物の多くは、人口が集中している都市部の住民向けに流通・販売されていきます。ただ、物質循環の点から見てみると、農村の貴重な物質資源が都市に一方的に集中し、農村は資源が減少する一方で、物質の偏りが生じ、資源枯渇や廃棄物による汚染といった環境問題の根本の原因として現れています。

また、地域経済を支える労働力としてのヒトも、工業化の進展に伴い、都市近郊の産業集積に対応するように、農村から都市へ流出し、都市の人口過密と農村の過疎化を進行させました。そして、モノとヒトが集積する都市には当然企業も集積し、経済を担う企業が多い都市にはカネも集まっていきます。

この都市と農村における、いわゆるヒト・モノ・カネの“偏り”の問題は、グローバル化が進展するなかで、都市=先進国、農村=発展途上国という形でより進行し、また複雑化しています。

この“偏り”を改善するためには、少しでも農村にヒト・モノ・カネが流れるような仕掛けを構築することが必要です。

たとえば、農業の6次産業化や農商工連携を通じて、農作物の付加価値化を展開することで、農村を支える農家の生活が豊かになれば、農村には新たな雇用が生まれ、農業・農村の活性化が期待されます。この流れを強めていくためには、農産物を提供してくれる農業そのものの価値を見直し、より高めていくことが大切で、農産物の新たな価値表現が必要だと考えております。

これまで、畑自体は作物を生産する場所としてしか評価されてきませんでしたが、作物は農村景観を保持する役割だけでなく、水源かん養や農村文化の保持といった多様な価値も有しています。

特にSDGsに関心が集まっている今、農業の価値が改めて再評価されていますが、単純に食料としての価値のみが評価されがちであった農作物も、環境保全や伝統文化の保持といった多様な面から消費者にその価値や魅力を表現していくことが大切です。

 

加えて、あらゆる業界のトレンドは、都心のオフィスワーカーから発信されることが主であり、エシカルや健康などの観点から、生活の中に農業を取り入れるのが素敵なライフスタイルとして発信されることが多くなってきました。

食事は健康や美容に気を遣いながら、オーガニックでエシカルな食材で。週末は農業を楽しむ。そんな“農業”のあるライフスタイルが今のトレンドです。

いままで“3K(汚い、きつい、危険)”のイメージが強かった農業は、都市住民にとって憧れの職業になりつつあります。

このトレンドをうまく活用しながら、農業の新たな価値表現を実現できれば、農業にヒト・モノ・カネを取り戻す流れを取り戻すことができるかもしれません。

 

その際に重要となるのは農業を担う農家をカッコよく演出することで、農家の暮らしを都市住民が憧れるようなライフスタイルに変化させていくことがポイントです。そこで、私は農家の新たなライフスタイルを創出する一つの手段として、「農業×ファッション」に取り組んでいます。

 

 

「食」の価値観が多様化する今、農家自身が商品の顔になる

近年、ハラールやビーガン、ロハスなど「食」に対する価値観が多様化するなか、食べ物の魅力を消費者に伝える上で、単に「モノ」としての情報だけでは、その魅力は十分に伝わりません。大切なのは、「誰が」「どこで」「どのような方法」で作っているかという「情報」まできちんと伝えることです。

この「食」の魅力に関する情報が、商品の差別化、ひいては付加価値へ繋がっていきます。特に、消費者が「誰が」作ったのかという情報を求めている点では、商品の顔は生産者の顔です。これまで農家は良い商品を作るということのみを意識して営農活動を展開しがちであったと思います。ただ、今の消費者のニーズからすれば、農家は単に農産物を作っているだけで良いわけではなく、自らが商品の顔となって見られることを意識していくことが必要です。

その点では、ムスッとして表情が硬く、汚れたままの格好をしている農家よりも、表情が明るく、キラキラとカッコよくて、お洒落な格好をしている農家の方が好印象だと思いませんか。

ゆえに、「食」の価値観が多様化する今、農家自身が自らの顔が商品の顔になること強く意識して営農活動を展開していくことが求められています。また、見た目も農家自身が意識していくという点で、「農業×ファッション」という切り口から農業の新たな価値表現を目指している意図があります。また、ファッション業界においても、今「農業」に高い関心が集まっています。

新型コロナウイルスの感染拡大により、いわゆる“お家時間”が増えたことで消費者、特に都市住民のライフスタイルは大きく変化しました。

外食の代わりに家でこだわりの食材を使って料理したり、家庭菜園を始めるなど、農業のあるライフスタイルが注目され始め、ファッション誌でも度々「農業」のあるライフスタイルにフィットしたファッションの特集が組まれるようになりました。各アパレルメーカーも今のトレンドとして「農業」を意識しています。

 

そこで、自身の見た目を意識することが求められている農家と「農業」のあるライフスタイルに着目するアパレルメーカーを繋ぐことで、従来の農業の悪いイメージ(きつい、汚い、危険)を払拭し、誰もが憧れる素敵な職業として「農業」を表現できるのではないかと考えております。

 

 

「農業×ファッション」におけるワークウェア開発のポイント

本来、農家は自然の中で仕事をしているので、四季の変化にとても敏感です。季節の移り変わりに敏感な農家だからこそ、季節に応じてファッションを楽しんでもらうことが大切だと思います。しかしながら、農家のユニフォームは作業着としての意識しかなく、汚れてもいい“どうでもいい格好”であることが多いです。最近では、機能性に特化した作業着も開発されてきましたが、あくまで作業着なので1年中、同じ恰好をしています。ただ、見た目も意識することが求められている昨今においては、農家のユニフォームは作業着としてのみならず、自らをブランディングする“衣装”としての意識を強く持っていくことが必要です。そのため、ユニフォームは機能性だけに縛られず、四季の移り変わりをファッションで楽しむといった感性や、自らを表現するためのツールとして捉えていく意識変化が大切です。その点では、「農業×ファッション」で開発するワークウェアは“作業着”だけで捉えるのでは不十分で、自ら表現する“衣装”でなくてはなりません。ゆえに、ワークウェアの開発において大切にしているのは、オシャレ着としてタウンユースとして使うことのできるカジュアルウェアであることです。

 

また、カジュアルウェアにこだわるのは、ワークウェアの利用者の幅を広げるためです。“作業着”としてのワークウェアにしてしまうと、日常的にその作業着を求めているヒトしか関心を持ちません。オシャレのためのカジュアルウェアであれば、それまで農業に関心がなかったヒトたちもファッションを通じて農業に少しでも関心を持ってもらえるかも知れません。

かつて“山ガール”と呼ばれる、かわいい登山ウェアを着る女性がブームとなりました。“山ガール”の中には、かわいいウェアを着て、インスタ映えの写真を撮るために始めた方もいたと耳にします。この“山ガール”のように、都心でも受け入れられているファッションスタイルのベースが、実は農作業着であったというブームは、昨今のアパレル業界の「農業」に対する関心の高さを見ると、遠くない未来に訪れるかもしれません。

そして、そのブームをきっかけに、農業に関心を持ち、農業をやってみよう、農村に行ってみよう、というヒトがたくさん現れることを展望しております。農業のカジュアルウェアが一番映えるのは農村ですし、そのカジュアルウェアを誰よりも着こなしているヒトが農家であってほしいと思います。農作業に適したシルエットや機能性も重要ですが、このウェアを着ている農家のようになりたい、と感じてもらえるような価値観を作っていきたいのです。

 

私がこの活動を始めたのは実家の離農がきっかけです。兼業農家に生まれ育った私は、農業の厳しい面を知っている父から「農家にはなるな」と言われ続けてきました。ですが、幼少期から親の仕事を手伝っていたきたなかで、子供ながらも農業の魅力を感じていましたし、その経験が農家・農業をより素敵に見せたいという思いに繋がっています。

 

 

 

女性が就農する選択肢を広げる上でもファッションは効果的

「農業×ファッション」という活動を始めたのは10年ほど前。農林水産省の「農業女子プロジェクト」に東京農大が大学として初めて参入したことがきっかけです。

近年、東京農大は女子学生の比率が高まっており、女子学生が農業におけるキャリアデザインを描いていけることが大切だと考えています。これまで女性が農業に携わるには、“農家の嫁”という手段がほとんどで、女性自ら営農に携わるのは難しい状況でした。ただ、「農業」のあるライフスタイルに関心を持つ女性が増えてきたなかで、それを後押しする仕組みが求められています。その一翼を担っているのが「農業女子プロジェクト」であり、オシャレに敏感な女性も数多く参画しています。そのような農業女子をよりスタイリッシュに、また農業に関心を持つ本学の女子学生に農業はオシャレであるべきという新たな価値観を持たせ、職業選択に農業を選んでもらうために、女性農家の新たなワークスタイルを提案する上で、ファッションは分かりやすいフックだと感じました。

また、女子学生が得意とする日本特有の価値観である「Kawaii(カワイイ)」は、あらゆる業界において新たなマーケットを設けてきました。「Kawaii」を農業で展開したら、農家女性ならではのワークスタイルや新たなマーケットが生じるかもしれません。

 

なんで「農業×ファッション」なのか?と言われることもありますが、「農業×ファッション」は、持続可能な社会の実現にむけて重要な都市と農村の関係を再構築するきっかけになるかもしれません。

これまでファッションのトレンドは都市から発信されてきましたが、これからは農村からトレンドを発信していくことになるかもしれません。誰よりもオシャレなのは農家。そんな世界を一緒に創出していきませんか。

 

・UNIVERSAL OVERALLとのコラボレーションで開発したジャケット。胸元には「tokyo nodai」のロゴが光る。

・開発するワークウェアはカジュアルウェアであることがポイントです。

Profile

小川 繁幸 准教授

生物産業学部 自然資源経営学科 6次産業化研究室

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