先生のSTORY
生物産業学部
食香粧化学科
妙田 貴生先生
先生のSTORIES
生物産業学部
食香粧化学科
私は、あらゆる食品の香りがどのような成分で構成されているか、その香りがどんな役割を果たしているかを研究しています。とくに口の中で感じる味に、香気成分がどう影響しているかに興味をもって取り組んでいます。
香りには、直接鼻で感じるものと、口から鼻に抜けていくものとがあります。またそれとは別に、口そのもので香り成分が捉えられることがわかってきました。それを私は「口で感じる香り」と呼んでいます。たとえば塩に、ある種の香り成分を混ぜると、その香りが鼻で感知できなくても、口の中で塩味を増大させることができます。つまり香りの成分によって、味そのものをコントロールできるということです。そうした「口で感じる香り」の働きは、糖尿病などで塩分を控えなければならない方の食事制限にも役立ちます。
食品の香りについて、鼻で感じるのか、口から鼻に抜けていく際に感じるのか、それとも口で感じるのか……などを日常で意識することはあまりありませんが、ひとたび気にしてみると、香りには、複雑に入り組んだ物質の相互作用が関係していることに気づき、新たな発見がたくさんあります。
たとえば調理は、「香りづくり」とも言えます。煮たり炒めたりすることは、食品の食感を変えるだけではなく、その過程で香りを形成しているといえます。料理とは圧倒的に香り成分でつくられるもので、研究を深めるほどに、「料理は香りづくり」だとわかってきます。鼻をつまんで食事をすると味がよくわからなくなりますが、それは私たちが香りを感じながら食べているからです。香りは、食品の味を特徴づけるもっとも重要なファクターなのです。
研究では、様々な食品の香りを嗅ぐ官能評価と、機器による成分分析によって、食品の香気の新たな機能の解明をめざしています。香りの研究での一番の分析機器は、「鼻」です。私が追いかけている香りの化合物は、絶対に分析機器では検知できない非常に低い濃度のもの。香りの研究では、とにかく「人の感覚器」が大事なのです。
鼻を使った香りの研究で大切なのは、鼻(嗅覚)の感度よりも、より多くの香りを嗅いだ経験とそれを言葉で表現することです。鼻の感度に関しては若いほど有利ですが、香りの経験は、やはり年長者のほうが豊富になります。研究室では、できるだけたくさんの実験を経験することによって、香りの経験値を上げていくことに重きを置いています。
たとえばバナナの香りは、「クリーミーで甘みがある」などと表現しますが、さらにその甘みは砂糖によるものなのか、砂糖といっても焦がしたものなのか、はたまた蜂蜜なのか……というように、感じた味を言葉に置き換えて分析していくと、それに合致する化合物を見つけ出すことができます。とても原始的な作業ですが、自分の鼻で検知した物質を化学的に解釈していく過程は、非常に興味深いものです。こうした香りの実験過程は実用性が高く、卒業後に食・香・粧業界の企業に入ったときに、即戦力になります。
東京農業大学では、香りの分析に関しては、日本の大学の中でもトップクラスの研究設備を備えています。分析機器もさることながら、香料の数や関連業界とのつながりから見ても、研究で不自由することはありません。
私はもともと育種学(植物の新品種の育成)を研究していましたが、ご縁があって香りの研究に携わることになりました。今はより香りの高い蕎麦の新種開発にも携わっていて、かつて育種学で経験した学びが生きており、興味をもって取り組んだことは無駄になることはないと感じています。
これから大学生となるみなさんには、興味があることに突き進み、存分に学問を深めてほしいですね。興味のあることは身につきやすく、学びを深める過程で人間性にも磨きがかかります。好きなことに情熱をもって取り組み、キラキラと輝いていってほしいと思っています。
・気化しやすい化合物(液体・固体)を分析する機器「ガスクロマトグラフィー」は4〜5台備えています。ガスクロマトグラフィーには鼻で化合物の香りを嗅ぐことができる機能もあります。
・香りの化合物は1000種類以上備えており、大学では随一。
・東京農業大学では、香気成分の分析に必要な機器がそろっています。香りの化学研究室では、食・香・粧業界の企業のでも即役立つ実験を行っています。