先生のSTORY
生物産業学部
海洋水産学科
小林 万里 先生
先生のSTORIES
生物産業学部
海洋水産学科
現在は大きく二つのテーマで研究を進めています。まず一つ目は「アザラシの存在がその地域を活性化する生態系管理を目指す」というもので、長きにわたりベースにしてきた取り組みです。そもそもアザラシは沿岸生態系の高次捕食者であり、分布の南限は北海道で流氷を利用することから、環境変動の影響を受けやすい海洋のモニタリング種になっています。これまで、彼らの生態系変化を明らかにし、同時にアザラシによる漁業被害の実態調査や防除方法の検討に携わってきました。
おそらく皆さんにとってアザラシは、動物園の可愛い人気者という印象があるでしょう。しかし北海道に生息する野生のアザラシは、沿岸漁業の網の中の魚を食い破る害獣という位置付けになっています。漁業はこの地域の基盤産業ですから、人の営みとアザラシの間に大きな軋轢が生じ、個体数管理を行っている状況です。
しかしその一方で、アザラシの糞尿や死体の有機態窒素が無機態に分解され、それが地域の昆布の繁茂に寄与していることを、私の研究によって科学的に証明してきました。昆布は海藻ですから、その周りにたくさんの稚魚が育ち、あるいはウニがおいしくなるなど、アザラシの存在が豊かな生態系を育み、地域の海を活性化しているのではないかと考えることができるのです。
アザラシを“害獣”という一方向から見るのでなく、地域全体の生態系の一員として捉え、その多面性を見ることで、野生動物の管理の新しい視点につながると考えています。研究においては動物の多面性に着目することが重要であり、「海洋生物学研究室」ではアザラシを対象動物として、様々なメソッドで動物の多面性を学ぶことができます。
二つ目の研究は「網走の海の豊かさを海生哺乳類から紐解く」ことです。網走の海は流氷が来るオホーツク海に位置し、大変豊かな海として知られています。そして季節それぞれに、高次捕食者である海生哺乳類たちが、入れ替わるようにこの海を利用しているのです。まだ仮説ですが、この海も高次捕食者が生態系を活性化していると私は考えており、どのような種類の高次捕食者が、網走の海のどんな場所を利用しているのかを調べ、この海がどれほど豊かであるかを解明しているところです。
農大は「実学主義」がモットーであり、特にオホーツクキャンパスはそれが実現できる場所であるといえます。例えばアザラシは道南を除く各地域に生息しているため、陸続きですぐに現場へ行くことができます。網走の海も目の前に広がり、フィールドが近いことがこのキャンパスの魅力です。
海洋生物学を探究するうえで、海生哺乳類がどのようなエリアに生息し、どんな生活をしているかを、自分の足で現場に立って見ることはとても大切です。実際にアザラシの生息地へ行けば、可愛いと思っていたアザラシが、実は非常に魚臭く、糞も独特の匂いを発していることがわかります。漁業者の方から被害の様子を聞けば、野生動物に対する思考もより深化するでしょう。研究室ではアザラシの死体もすべて解剖しており、多様なサンプルからは次なる研究シーズも生まれます。現物を見たり、触れたり、匂いを嗅ぐことは、「五感で海生哺乳類を知り、海の生態系を学ぶ!」ことのリアルな実体験であり、そこを追求できるのが、オホーツクキャンパスにおける研究環境の最大の魅力であると思います。
オホーツクキャンパスを選んで来てくれる学生たちは、とても純粋であり、自然が好きな人が多いですね。海洋水産学科の学生には釣り好きが多く、網走の大自然を4年間満喫していると思います。またこのキャンパスは、学生と教員の距離がとても近いことも特徴です。小さな街であるため、みな生活圏が近く、イメージ的にはコンビニや飲食店で農大生たちがアルバイトをしていて、大学以外でも顔を合わせることが多くあります。そのため必然的に会話をする機会も多く、われわれ教員に相談しやすい関係性が築けているのでしょう。農大を応援してくださる地元の方も多く、学生にはのびのびと暮らせる環境だと思います。
そうしたなか学生には、「自分の人生を豊かにするのは様々な実体験である!」ということを、いつも大切に伝えています。自分が実際に手を動かし、見て、感じて、体験することは、人生においてとても重要です。実体験はお金で買うことができませんから、学生のうちに何でも積極的に行動して体験し、将来の財産にしてほしいと思っています。大学生は、自由になるお金は少ないと思いますが、時間はたくさんあるので、果敢に行動してください! 受験生の皆さんもぜひ、実体験ができる大学を選び、Webサイトには決して載っていない、あなただけの体験をしてほしいと思います。
・背の倍ほどあるセミクジラのヒゲ板とナガスクジラのヒゲ板。
・アザラシにGPS発信機を付けて、携帯で位置を確認する。GPS発信機は非常に高価だが、毛の生え変わりの時期に一緒に海へ落ちる運命にある。
・ゼニガタアザラシの頭蓋骨。大きさを測り形状を把握、歯からは年齢を推定している。