先生のSTORY
生物産業学部
北方圏農学科
平山 博樹 先生
先生のSTORIES
生物産業学部
北方圏農学科
酪農と畑作を営む家に生まれた私は、農業高校から本学の生物生産学科(現北方圏農学科)へと進学し、何らかの形で農業に関わる生活を続けてきました。
卒論と修論では乳牛の遺伝に関する研究をテーマとしましたが、これらのきっかけが形を変えながら現在の研究につながっています。北海道立総合研究機構の畜産試験場に15年間勤務したのち、母校に戻ってきた現在の研究テーマは、牛が健康に子牛を分娩するために必要な繁殖生理メカニズムの解明です。
研究の背景の一つとして、食料自給率の問題が挙げられます。和牛よりも安価な輸入牛肉の方が消費者の手に入りやすく、牛乳も30〜40%を輸入に頼り、乳製品の原料が不足している現状があります。消費者のニーズも相まって、和牛の需要が増加しているということもあります。こうした中で国産の牛肉・牛乳を低価格で安定的に供給していくためには、より効率的に畜産物を生産しなければなりません。もちろん、牧草地でのんびりと育てられた牛の健康的な肉・乳製品を求める志向もありますが、それだけではますます輸入に頼らなくてはならなくなりますので、1頭の家畜(牛)から効率的に畜産物を生産していくためにどのような貢献ができるかというのが、家畜生産管理学の視点です。
近年、先進諸国共通の問題として牛が妊娠しづらくなっていて、雌牛が子牛を産む効率が低下しています。産まれた雄子牛は肉牛として食卓にのぼり、乳生産を維持・増産するには雌子牛が必要です。雌牛がきちんと妊娠をして、1年に1回くらいのペースで子牛を産むというサイクルが達成できれば、牛肉や牛乳の生産量も安定してくることが望めます。
私の研究では、そのサイクルを守れるように、牛の妊娠が成立するために必要な卵巣や子宮の生理機能がどのように制御されているのか、分子レベルでメカニズムを解明することを目指しています。また、牛の分娩管理の省力化につながる分娩誘起技術の改良を目指し、実際に分娩牛を調査して母体に起こる生理的変化を分析しています。
農学は幅の広い分野ですが、東京農業大学は、農業・漁業・食品などの産業界が抱えている課題解決に立脚した研究が多い印象です。実際、牛1頭を育てるにも遺伝子機能や飼料品質の問題など、幅広く多様な要素が絡んでいます。農大は生殖医療や遺伝学などの基礎研究と作物学や家畜栄養学など応用研究のバランスが取れていて、専門の異なる多くの教員とディスカッションし、多様な意見をもらえる点が素晴らしいと思います。風通しが良く、コミュニケーションが取りやすい雰囲気も、コンパクトな規模のオホーツクキャンパスならではだと感じています。
北方圏農学科の学生は、9割は道外から、そのうち6割は関東近郊から入学し、自然、農業、家畜と関わる機会がなく育ってきた学生と、農業後継者や農業高校で学んだ学生が混在しています。オホーツク海と網走湖を見下ろす山の上にある自然豊かなキャンパスで、ウマやヤギを飼育し、実習で初めて触れる動物に喜んだりしながら、都会では得られない視点を得て、彼らが渾然一体となりながら成長していく姿はとても魅力的に映ります。授業で学んだことが必ずしも進路に直結するわけではありませんが、多くの学生は学びのプロセスの中で目に見えない何かを身につけます。学生の成長の仕方は多様であるべきで、「調べる、整理する、伝える、検証する」という作業の中で良いところを伸ばしたり苦手なところを克服したりできる機会を提供しなければと思っています。
社会に出て独り立ちしていくための意義深いステップである4年間の大学生活をオホーツクの自然や農業の中で暮らせることは、将来の可能性を広げるものすごいチャンスです。漁業や農業のアルバイトを通して実践力を磨く学生もたくさんいますが、最低限の授業だけではなく、遊びでも、学びでも、積極的に飛び込んで、新しいことをどんどん吸収して欲しいと思っています。他ではできない成長につながるチャンスを逃す手はありません。大学生活でぎゅーっと力をためて、社会に向けて思い切りジャンプしてください。
・牛の子宮内膜細胞を培養し、受精卵が着床するために重要な遺伝子の役割を研究する。細胞が生産したタンパク質を赤や緑で蛍光標識し、顕微鏡で観察する。
・家畜舎で飼育している北海道和種馬(道産子)。他にヤギ、エゾシカ、エミューも飼育中。
・牛の繁殖生理メカニズムの研究には細胞やRNAなどを取り扱う分子生物学実験が不可欠。