先生のSTORY

国際食料情報学部
国際食農科学科

大久保 研治 先生

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国際食農科学科

大久保 研治 先生

Tokyo Nodai Story
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意思決定と行動を解明する経済学の視点から 「農」と「食」を通じて継承されてきた文化の新しい価値を見出す

日本各地の地域資源の謎に経済学という切り口で迫る

現在は馬肉を中心に、食や農に関わる文化を含めた地域資源と消費者行動について、主に経済学の観点から研究をしています。どちらかというと、統計学や計量経済学の方法を用いて、収集したデータをコンピュータで解析することが多いです。馬肉を研究テーマとしたのは、福島県会津地域の方々とともに行っているプロジェクトの中で、馬肉の産地である会津で馬肉関連商品を開発することになったのがきっかけです。私自身が熊本出身で、幼い頃から馬肉は身近な食材であったことも関係しています。

 

熊本と会津では、馬肉の食べ方や馬の種類(肉質)は異なります。国内にはそのほかにも、馬肉を食べる地域(長野、福島、岩手、青森など)が点在していますが、なぜ地域が限定されているのか疑問を感じていました。そこで馬肉のデータや文献を集めようとしましたが、農林水産省にもデータがあまりなく、生産や消費についてもほとんど研究されていないことがわかったのです。それならば馬肉文化や生産・消費の謎を研究テーマとして解明しようと、取り組み始めました。馬肉を好きな方は多いようですが、その文化については知られていないことが多く、学会発表では手ごたえを感じているところです。

 

私の研究室では、普段食べられているものがどこでどのように作られ、どういうルートを辿って店舗に並び、消費されているのか、なぜその地域で作られているのか、地域にはどのような食文化があるのか、日本全国各地ではどう流通しているのか、そして安定的な生産と供給のための政策など、食や農に関する文化と政策について研究しています。

 

現在の研究に至る出発地点となったのは、大学院時代に取り組んだ、環境を経済的な視点で測るという研究です。熊本県の阿蘇には広大な美しい草原があり、牛馬の放牧地や、古くは茅葺き屋根の材料、燃料などとして利用されてきました。農家の営みの中で守られていた草原も、近年では人々の暮らしが変わって利用されなくなり、1990年代になると管理が難しくなってきました。そこで、その草原がどれだけ重要なのか、阿蘇が年間1800万人が訪れる観光地であることに注目し、観光資源としての価値を、お金で測ってみようと思ったのです。現地で観光客に回答してもらったアンケートの結果を分析したところ、600億円に近い価値があることがわかりました。その研究結果は地元の新聞で取り上げられ、大きな反響を呼びました。

 

このように経済学という物差しで物事を見ていくと、それまで気づかなかった新しい価値を発見することができます。経済学の視点から、地域で継承されてきた食や農の文化に光を当てることで、社会に貢献できればと考えています。

 

 

 

フィールドワークは明確な分析視角をもって挑むことが大切

研究室では、学生主体の「商品開発プロジェクト」(農大×会津プロジェクト)で、会津坂下町の食農関連企業と連携して、現地で生産されている馬肉、米、酒の商品開発を行っています。これまでに、馬肉では竹原肉店の「馬タンの味噌かす漬け」や、馬刺しをおいしく食べるためのタレ(ふりかけ)を開発しました。

 

米では、会津原産の品種「里山のつぶ」と「ミルキークイーン」を使ってブレンド米「米田倫(My Daring)」を開発しました。「米田倫(My Daring)」は恋人が初めて家に来た時に出すご飯というコンセプトで、キャッチフレーズは「あなたの『おかわり』が聞きたいの」というもの。一緒に開発した猪俣徳一商店の猪俣さんは、「シチュエーションを想定したコンセプトはとても画期的で、仲間もおどろいている」と好評でした。第2弾としては「癒やし」をコンセプトに、緑茶のパウダーと一緒に炊く「Comel」を開発し、現在は第3弾の開発をすすめています。

 

またお酒では、曙酒造が日本酒をベースに会津中央乳業のヨーグルトとあわせて作っているリキュール「Snowdrop(スノードロップ)」の新シリーズとして、トマトジュースをブレンドした「Snowdrop とまととまと」を開発しました。こうした商品開発によって、地域の食の価値を高め、新しい食文化の創造にも繋げていけたらと考えています。

 

社会科学系として現場に足を運び、フィールドワークを行うことも多い立場としては、全国津々浦々に農大の卒業生がいることは他大学にはない強みだと思います。これまで農山村をフィールドに活動してきましたが、行く先々には農業や林業を営む卒業生、食農関連産業に勤める卒業生、あるいは農協や役場などに勤める卒業生などが必ずいて、様々な面でサポートしてくれました。「農大×会津プロジェクト」も会津坂下町で米穀商の猪俣徳一商店を営む農大の後輩との繋がりから始まったものです。また、「Comel」で使用している緑茶パウダーは福岡県八女市矢部村の栗原製茶のものですが、こちらも農大の後輩になります。

 

学生はフィールドワークに出ることが多いのですが、そこで観察したり体験したりしたことをただ漫然と受け止めるのではなく、どのような意味を持つのか、物事をきちんと分析視角をもって捉えることを大切にしてほしいと思っています。また学生には、大学の教員が授業で話していることや、ちまたで言われていることがすべて正しいと思わないようにと意識的に伝えています。私の分野でも、これまで正しいとされていたことが間違いだったことが多くあります。きちんと理論を踏まえて物事を見ていくことが大切です。

 

農大の5学部23学科の教育・研究は、人類の生命を守ることに繋がる重要な領域です。その中でも国際食農科学科では、生産から食品科学、栄養、食品加工、経営、経済、流通、食育など、農大でやっていそうなことは一通り、幅広く学びます。もし農学に関わる分野を学びたいけれど何を専門にやりたいかがまだわからない、あるいは農業や食料についてすべてを学びたいという人には、国際食農科学科は良い選択になると思います。

 

・ブレンド米の「Comel」と稲わらで作ったおかざり。ブレンド米開発では、パナソニックに所属する炊飯のプロ「ライスレディ」の方々からおいしいご飯の炊き方のレクチャーを受け、「Comel」の開発には炊飯器を4台貸していただきました。

・データやフィールドワークで得たものを分析し、人の動向を数字で表して見てみると、新たな発見があります。

Profile

大久保 研治 准教授

国際食料情報学部 国際食農科学科 食農文化・政策研究室

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