先生のSTORY

生命科学部
分子微生物学科

川﨑 信治 先生

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分子微生物学科

川﨑 信治 先生

Tokyo Nodai Story
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極限環境に生きる優れた生命力を持つ微生物を探索し 未知の生命反応の発見と社会への貢献をめざす

極限環境に生きる微生物のユニークな生命反応を探る

こんな環境ではとても生きられないのでは? と思われるような極限環境(砂漠や塩湖)に逞しく生きる生物に出会って以来、究極の生命力を持つ微生物の探索と、未知の生命反応の発見を目指して研究しています。

 

生物学を勉強すると、細胞は水が無い環境や高温環境では生きていけないことがわかりますが、一般的な生物が生育できない極限環境に生きる生物は、教科書に当てはまらない生命反応で生きています。中でも微生物は高等生物ように複雑ではないので、太い一本の木のようなシンプルな生命反応が見つかります。シンプルだからこそ、期待する生命反応を発見できる確率が高くなると考えています。

 

極限環境としては、強い光が照りつける極限環境(砂漠や高山、壁面、真夏のアスファルトなど)に生きる究極の生命力を持つ微生物(主に微細藻類)の探索と、その優れた光合成能力を利用した有用物質生産について研究しています。また研究材料にしている微細藻類は、光とCO2を材料として様々な物質を作る能力や、高い増殖力を持つので、見つかった有用物質を迅速に大量生産することが可能になります。1週間ほどで小さなフラスコ内の細胞が数百リットルにまで増殖するので(トップの写真)、近年ではユーグレナやクロレラなどの微細藻類産業が注目されています。

 

研究テーマを決めるときに大切にしているのは、オリジナル性です。どんなに小さなことでもいいので、卒論や修論1つ1つのテーマが世界初のオリジナルな発見につなげていける研究にしようと、常に考えています。小さいながらも自分達にしかできないようなもの、将来的に世の中で利用していただける“種”を見つけることを、研究者として大切にしたいと思っています。

 

 

 

研究の楽しみは学生と感動を共有する瞬間にある

研究をしていると、今まで聞いたことのない生命反応の瞬間に出会えることがあります。そうした瞬間は、やはり感情が高ぶります。極限環境は微生物の探索例が少なく、多くの新種が見つかります。上の写真で手に持っているのはモンゴルのゴビ砂漠で単離した新種候補の光合成微生物です。また最近では、農大前の真夏のアスファルトから単離した新種の光合成微生物の体内から、強い光から身を守るための、他の生物では報告例が無い色素タンパク質が発見されました。

 

光合成微生物はストレスを感じると細胞が変化して緑色から赤く変化します。これは微生物の体内で強い抗酸化作用をもつ赤い油の色素(アスタキサンチンなどのカロテノイド)がつくられるためです。赤くなった細胞を粉砕して遠心分離機にかけてみると、通常なら赤い成分は水に溶けずに分離して上澄みは透明になりますが、上澄みが赤いままでした。本来ならカロテノイドは水に溶けないため、光合成微生物の体内に、油のアスタキサンチンを水に溶かす働きをするタンパク質の存在が判明しました(写真3B)。これは世界でも初めての発見です。本研究に端を発し、数種類の新規な色素の同定に成功し、大量生産が可能な有用色素として食品や化粧品への応用も含めて研究を進めているところです(写真3C)。

 

こうした研究は学生とともに行っていますが、学生と一緒に何かを発見したときは、感動を共有する貴重な瞬間であり、その瞬間を楽しみに研究をしているところもあります。知識がないと素通りしてしまう場面も多いため、学生と一緒に現場で研究を進めることを大切にしています。

 

「分子微生物学科」は、まだ誰も見たこともない微生物や、その生命反応を解明していくためにつくられた学科です。たとえば私たちのお腹の中にも1000種類以上の微生物がいますが、それらの働きはまだ解明されておらず、いくつかの研究室で乳酸菌の研究が精力的に進められています。私どもの研究室でも、酸素(O2)が少しでもあると生きられない絶対嫌気性菌(クロストリジウム菌やビフィズス菌など)と呼ばれる腸内微生物のO2防御機構に関する教科書レベルの基礎研究を行っています(写真4)。教科書には絶対嫌気性菌はO2があると死んでしまうと書いてあります。しかし研究室で調べたところ、死んでいるのではなく、逆に絶対嫌気性菌がO2に対して非常に立派な防御能力を持っていることがわかりました。この研究を通じて、教科書への貢献とO2に弱いが故に未利用の有用絶対嫌気性菌の育種・開発に役立てることを目指しています。

 

「分子微生物学科」と聞くと難しく感じますが、高校時代までの成績は研究力とはあまり関係ありません。実際の研究は発想力に依存する面が高く、生物学や生物化学の基礎を大学でしっかりと勉強し、生物をよく観察し、その過程で感じた興味や疑問を追求する意志を持つことがスタートラインです。

 

「分子微生物学科」には、当研究室のほかにも、バイオインフォマティクス、植物共生微生物や動物共生微生物、複合微生物などの研究室もあり、あらゆる微生物の培養を可能にする実験設備やミクロの世界を解き明かす最先端の研究設備が充実しています。微生物学はすべての生物学に通じる基礎学問で、社会の注目度が増している分野でもあり、本学科でしっかり学べば、卒業後は様々な分野に進出できます。特に未知の微生物や、ユニークな生命反応に興味を持つフロンティア精神が高い人に向いていると思います。新種の微生物を見つけてみたい人など、ぜひ見学に来ていただけたらうれしいですね。

 

・過酷な生育環境からサンプリングした微細藻類の培養の様子。強すぎる光を照射すると細胞が緑色から赤色に変身します。

・学生が沖縄で単離した微細藻類Oki-4N株(イカダモ)。化粧品成分などで注目されるアスタキサンチンを水溶化する新規な色素タンパク質を細胞内に蓄積し、日焼け防御を行うことが判明しました。

・研究室で発見した世界初の色素のコレクション。日焼け防御力や抗酸化力が高く、食品や化粧品への応用も含めた基礎研究を行っています。

・絶対嫌気性菌は酸素(O2)があると生育できません。なぜ酸素があると生育できないのか、佐藤拓海准教授とともに研究を進めています。

Profile

川崎 信治 教授

生命科学部 分子微生物学科 資源生物工学研究室

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