先生のSTORY
生命科学部
バイオサイエンス学科
尾畑 やよい 先生
先生のSTORIES
生命科学部
バイオサイエンス学科
私は、哺乳類の生殖細胞からどのように精子や卵子が分化するのか、そのために必要なものは一体何か、また生殖細胞の能力をうまく引き出して哺乳動物の生産や育種に活かすためにはどうしたらいいか、などをテーマに研究しています。
個体(生命)を生み出す能力を「全能性」と言いますが、全能性は受精卵にしかないと言っても過言ではありません。現在では、様々な細胞に分化できるiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)を用いれば、卵子の元となる卵母細胞も人工的に作り出すことができますが、卵母細胞に備わっている「全能性」とは一体何かというと、まだわかっていないことが多く、私はそこに興味を持って研究に取り組んでいます。
こうした研究は、将来的には、生殖に関わる疾患の原因解明や不妊治療、哺乳動物の生産や育種などに貢献できる可能性がありますが、研究者としては純粋に、生命が誕生するメカニズムの根幹を解明したい、という気持ちがあります。その一方で、生命を対象に研究を続けていると、その全容は解明されずに神秘のままであってほしいという気持ちも芽生えてきます。立ち向かう問題が命の根幹というあまりに大きなもののため、全容を解明しきれるとは思っていませんが、その一部でも解明できればと考えています。
私が高校生の頃はバイオテクノロジーという言葉が出始めた頃で、その言葉の響きに惹かれてこの世界に入りました。現在取り組んでいる生殖細胞の研究を始めたのは大学3年生の時です。そのきっかけは、担当教授の専門分野がたまたま生殖細胞だったことでした。強い思い入れがあったわけではないんです。当時、マウス卵の核移植実験で卒業論文研究を始めたのですが、核移植と一言で言っても、簡単なものから難しいものまで様々で、まだ誰も取り組んだことがない核移植ができるようになると、これができるのは世界でも私だけと思えて、わくわくしました。大学での一期一会で、将来の方向性も変わることを実感しています。
研究はやればやるほど、それまでわからなかったことがわかってきて、知的好奇心が刺激されるものです。自分で仮説を立て、実験をして証明していけるようになると、そのプロセスがおもしろくて、気づけば夢中になっていました。教員となった今は、この刺激を一人でも多くの学生と共有していきたいと考えています。
農大生の感心するところは、それぞれが、大勢いる学生の中に埋もれることなく育ち、個性を発揮しているところです。教員と学生の比率を考えると、国立大学のように恵まれた状況とは言えませんが、学生たちは皆、自分自身で成長する術を自然に獲得し、社会に貢献できる人物として巣立っていきます。
学部生はやっと実験の技術を獲得し、能動的に研究ができるようになった頃に卒業になるので、特に研究に一生懸命取り組んだ学生は、「もっと研究をやりたかった」と言って卒業していきます。たとえ大学の4年間で目標が達成できたとしても、その先にあるものを目指したくなるのでしょう。また大学院生は、研究成果を「こんなに面白いことがわかりました!」と誇らしげに発表していて、こちらにも新しいものを発見した喜びと感動が生き生きと伝わってきます。
学生には勉強や研究も頑張ってほしいと思いますが、全員が研究者になるわけではないので、「頑張る」の方向は、皆それぞれでいいと思っています。持っている能力や生き方も、一人ひとり違うものです。たとえば、オリンピックや全国大会に出場できなくても、あるスポーツのために24時間を捧げる人もいるかもしれませんし、授業や研究室の活動の合間に友人と旅行に行く人もいるでしょう。また、アルバイトなどの社会経験をする人、そのときにしかできないことを楽しむ人、苦戦しながらもどうにか就職先が決まったという人もいるかもしれません。どれも素晴らしい経験だと思います。どの生き方にもそれぞれの「頑張り」があり、やがては自身の糧になるはずです。できることを思い切りやって、後悔のない学生生活を送ってほしいと思っています。
人と人の出会いは一期一会です。これから大学生になる皆さんは、入る大学が、第一希望でもそうでなくても、やりたいことが決まっていてもいなくても、大学での出会いによって、新しい世界が開けていくことでしょう。学生の皆さんが充実した4年間を過ごせるよう、そしてやがて自律していけるように、我々教員は全力で応援しています。
・顕微鏡をのぞきながら卵子を操作し、体外受精させたあとは、「どうか生まれてください!」と祈るような気持ちです。
・今後は自分自身の研究を進めながら、研究者を目指す若い方々が、もっと活躍できるように環境を整えていきたいと考えています。