先生のSTORY
応用生物科学部
醸造科学科
徳岡 昌文 先生
先生のSTORIES
応用生物科学部
醸造科学科
清酒づくりに欠かせないのが「麹菌」です。清酒の品質には、麹菌のどのような要因が関わっているのか、清酒の成分解析や麹菌の酵素や遺伝子の解析などを通じて追究しています。
酒類生産科学研究室に所属している学生は、お酒が好きだったり興味があったりする人が比較的多いものの、皆がそうだというわけではありません。よく醸造科学科への進学を目指す高校生やその保護者の方から、「お酒が好きな人とか実家が酒蔵の人が進学するところなんですよね?」と聞かれます。そういう人もいますが、むしろ伝統的な酒づくりや、発酵食品への興味、将来性に惹かれて進学する学生が多いと思います。私自身、お酒は好きですが、毎日晩酌をするようなタイプではなく、むしろお酒に弱いタイプなんです。醸造科学科は醸造を科学的に学べる面白い学科です。お酒に強い弱い、家の職業などにかかわらず、醸造や発酵の世界に魅力を強く感じる幅広い人に進学してもらいたいですね。
日本で暮らす私たちにとっては、清酒も味噌も醤油も身近にあって当たり前。でも海外の方々からすれば、微生物を巧みに利用して作られた多様なお酒や発酵食品が身近にある生活は異文化であり、さらにそれらがおいしくて栄養豊富となれば、興味深く感じるのは当然です。グローバル化が進んでも、私たちの生活と醸造のつながりが途絶えることはないでしょう。こういった理由から、海外の方々は私たち独自の伝統技術・文化としての「醸造」に敬意をもってくれていると思います。さらに、日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術は、「伝統的な酒造り」として初の登録無形文化財となりました。さらにはユネスコの無形文化遺産に登録しようという機運が国を挙げて高まっています。独自性がありグローバルな価値を持つ「醸造」と、醸造に不可欠な麴菌は、今後海外からの興味・関心はますます高まり、注目される分野になると確信しています。
私の卒業論文の研究グループでは、あらかじめ独立したやや難しいテーマを選定し、学生それぞれに一つ選んで取り組んでもらいます。テーマが重複しないようにしているのは、研究結果に対して、自分の力で明らかにしたという、「自信」をもって欲しいからです。この自信があるからこそ、研究は心から楽しいものとなります。
一方で他人任せにできない環境なので、実験を進めれば自然と「失敗」を数多く経験します。失敗を乗り越えるための試行錯誤こそが学びそのものです。必要があれば学生と私で議論をします。質問も常時OKです。いつでも話ができるように、私の部屋の扉はいつも開けています。助け舟を出すこともあれば、「私も知らないから自分で調べてね」と任せることもありますね。醸造や麹菌研究の奥深くて面白い世界は、科学を存分に楽しみ、学生の学びを深める素晴らしい舞台だと思っています。
東京農業大学で学ぶ学生、そして進学を目指す受験生の皆さんには、好奇心を強く持って日々の勉強の力にしてほしいと思います。何かに向かう熱意や集中力は、好奇心があってこそ。あと野心も持ってほしいですね。野心というと「出世」とか「お金」とかの言葉が思い浮かんでネガティブな印象を抱く人もいるかもしれませんが、「誰も知らなかったことを自分が明らかにしたい」、「新しい研究に取り組んで誰かの役に立ちたい」という思いも立派な野心です。
また、社会に出れば必ず競争はありますから、そこで自分らしい人生を送るためには、野心が必要になるときが来るでしょう。好奇心も野心も、感じ方、表現の仕方は人それぞれ。どんな形であっても一人ひとりが持つ好奇心や野心を大事にしてほしいですね。
醸造科学科で学ぶのであれば、醸造の技術を進化させる、世界に広げるなどという野心を持つことは大歓迎。ドメスティックなものととらえられがちの醸造ですが、これからの時代、私たち誇れる独自の技術・文化として、その価値がより高まるでしょう。繰り返しになりますが、世界の人たちは私たちが考えている以上に、清酒や醤油、味噌といった日本の伝統食品に興味を持ち、独自の技術・文化としてリスペクトしてくれています。伝統のある醸造という専門性を武器にして世界と戦えるよう、研究室の学生の皆さんには、存分に研究に没頭して欲しいと思います。
・搾る直前の清酒もろみ。研究室では仕込みスケールが小さいので遠心力でもろみを搾ります。
・様々な機器を使って、清酒の成分、品質とおいしさの関係を調べています。
・学生時代から麴菌の研究を続ける徳岡先生。「まだわからないことが多く、学生と一緒に悩み、楽しみながら研究をしています」