先生のSTORY
農学部
生物資源開発学科
石川 忠 先生
先生のSTORIES
農学部
生物資源開発学科
地球にいる昆虫類の種数は100万種以上、全動物の4分の3を占めると言われています。未だに全貌は明らかになっておらず、毎年たくさんの新種が見つかっています。
私は昆虫の中でもカメムシ亜目の分類学的研究を専門としています。平たく言えば、この世にカメムシは何種いるのかを明らかにして、種に名前をつけ、属・科・目などのグループにまとめていく学問です。
この研究の目的はいくつかありますが、中でも私が興味を持っているのは、自然や生物多様性の保護・保全につながるということです。例えば、私は環境省関連の仕事で絶滅危惧種を選定したこともありますが、絶滅危惧種の存在を明らかにすることで、何らかの地球環境保全のアクションにつながります。また、ある地域の自然や生物を保護するためには、その地域にどんな生物がいるかをわかっていなければなりません。それに貢献できる学問分野の一つが分類学です。
研究対象をカメムシとしたきっかけは、どの昆虫を研究しようかと考えていた時期に、たまたまアルバイト中に肩に止まったムシがカメムシだったからです。カメムシは水域から陸域まで、人の手が加わっている自然にも、至るところに生息しており、日本だけでも約1400種も存在します。また、害虫から益虫まで関わり方も多様です。「新種を自分で発見できるかもしれない」という思いに強く駆られて日本各地を巡り、ときには海外での調査を行い、これまでに何種もの新種のカメムシを見つけ、その新発見を論文として発表することができました。生物多様性のほんの一端ではありますが、その解明に向けて少しずつ前進しています。
じつは、東京農業大学に入学した当初は植物病理に興味があったのですが、大学の講義で聞いた「昆虫はいくらでも新種がいる」という言葉に惹かれて、高揚感と不安感を同時に抱きながら、昆虫学という未知の分野に飛び込みました。研究室に入室後は、昆虫好きの知識豊富な同期や先輩・後輩が話している昆虫の学名(学名しかついていないムシもたくさんいる)がまるで呪文のように聞こえ、話についていけませんでした。そんな折、当時の恩師が「石川は研究をすればいい」と言ってくれました。知識があるというのは他人が明らかにしたことを知っているだけであり、研究というのは自らが何かを明らかにすることだと伝えてくれたのだと、私なりに解釈しています。この考えは今でも変わらず、「たとえ知識が乏しくても研究に打ち込めば新しい発見をすることができるし、知識も自ずとついてくる」と学生にも伝えるようにしています。
本学の昆虫学研究室には、各種の顕微鏡や標本用品、標本庫などの物理的な研究環境が整備されているだけではなく、学生のときから「自分がやりたい研究」をのびのびと研究できる風土が根づいています。卒業論文のテーマを決める際、自身の研究テーマを見つけるのに悩む学生もいますが、そんなときは知識を蓄えることよりも、何をやったら新発見につながるかを考えることです。それを証明するにはどういった観察や実験をすればよいか。そして机上で考えるだけでなく、授業以外でもどんどんフィールドワークに出て、ムシを採ってくること。そうした行動を積み重ねる中で気づきを得て、だんだんと進む方向性が定まってきますし、持続力や社会と関わる力などを身につけていくものです。自身でやると決めたことに責任を持ち、努力して新発見を得る過程を切り拓いていった学生は、人間的に大きく成長するはずです。
生物資源開発学科には自然や生物が好きな学生が集まり、物怖じせずに積極的にフィールドワークに出かけ、好きなことを思う存分楽しんでいる姿が見られます。それでも、スマートにやろうと頭で考えている時間がまだ長いと思います。失敗をし、寄り道をすることこそ、学ぶことが多くあります。何事に対してもやりたいと思ったらまずチャレンジして、のめり込んでほしいと思います。
・石川先生はこれまでに約80種のカメムシの新種を見つけて発表し、1000種以上のカメムシの生息を明らかにしてきた〝カメムシのスペシャリスト〟だ。
・石川先生が発見した新種のサシガメの標本。
・「昆虫学研究室の学生はもちろん昆虫が好きですが、たいていの学生は魚や爬虫類・両生類も好きだったり、それらの生物がいる環境に詳しかったりしますね」と石川先生。