先生のSTORY
農学部
農学科
キム オッキョン 先生
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農学部
農学科
「植物病理学」ではどんなことを学ぶのか、みなさんはイメージできますか。
私も大学に入って農学を学ぶまでこのような分野があることを知りませんでしたし、多くの人にとってあまり聞きなじみのない学問ではないかと思います。
植物病理学はカビやバクテリア、ウイルスなどによって、人ではなく植物が病気になったときに、その原因が何なのかを突き止め、病気を防ぐための学問のこと。簡単に言えば植物病理学研究室は“植物の病院”です。
私は植物の病原体の中でも、ウイルスを専門に研究しています。新型コロナウイルスの影響で、「ウイルス」が世界中で注目を集め、ウイルスの検出には欠かせないPCR法も多くの人が知るキーワードとなりました。そのおかげで、ウイルスが身近なものとなり、自分たちの生活にかかわりのあるものだという理解が深まったのではないでしょうか。
最近ではSDGsに興味を持つ学生も多く、以前よりもますます自然環境に配慮した農とは何かに興味を持ち、模索し、研究対象とする学生が増えています。植物病理学の分野で、SDGsを考える際に欠かせないキーワードの一つに「農薬」があります。
一般的に農薬の使用に対して、多くの人は否定的な考えやイメージを持っているでしょう。一方で、大きな農場で一切の農薬を使用せず全ての作物を育てることは、農家への負担も大きく、安定供給が難しくなるなどのデメリットも存在することを忘れてはいけません。農薬は悪ではないのです。
私たち人間が病気になれば薬を飲むように、植物にも農薬が必要とされるケースがあり、人間の体や環境に悪影響を及ぼさないように、厳格な使用基準が定められています。大切なのは適切な使用回数や濃度を守ること。そういった農薬への正しい意識を持ってもらうことも私たちの研究の大切な役割の1つです。
一方で、農薬の代わりに微生物や植物を利用して植物を病気から守る研究も進んでいます。微生物には植物の病原体となるものもあれば、そうでないものもあるのです。うまく活用すれば病気を防げるなど、有用な微生物なども存在します。そういったさまざまなアプローチから研究に取り組み、植物を病気から守るのが植物病理学なのです。
私と東京農業大学との出会いは大学4年生のとき。韓国から長期留学生としてこの大学にやってきました。まず驚いたのは研究のための最新の設備を有しながら、昔からの古い機材も大切に使っていたこと。古典的な研究方法も必要であれば取り入れながら、新しい手法も積極的に活用するスタイルは、当時も今も変わらない農大らしさの1つだと感じています。
そしてもっと驚いたのは、教員と学生の距離の近さです。韓国では大学教員と言えば雲の上のような存在で、なかなか気軽に質問をしたり、相談したりできるような間柄ではありませんでした。もちろん気さくな先生もいます。留学当時、東京農業大学の先生方は、いつも「学生ファースト」。研究室はオープンで、一人ひとりの学生に寄り添い、サポートしてくれる環境の良さに惹かれ、学部を出たあと、東京農業大学大学院に進学。今は教員として、同じように学生たちの学びや研究をサポートできるよう心掛けています。
留学生だったころも、教員になった今も、東京農業大学の学生たちから感じるのは、農業や農学への情熱。その熱い思いに驚かされることも多く、学生たちの持つパワーや情熱に負けないようにと、私も必死に研究に取り組んでいます。教員に言われたからではなく、自ら畑に足を運び、熱心に研究を行う姿は、なかなか他大学では見られない姿かもしれません。
130年という長い歴史の中で輩出してきた、たくさんの卒業生たちは日本全国のみならず、世界中を舞台にさまざまな分野で活躍をしています。その大きなネットワークは、東京農業大学の大きな強みだと感じています。東京農業大学で育まれた人と人とのつながりが、研究を進めていくうえで、大きな力になることは間違いありません。
大学の中だけでみても6学部に150を超える研究室があり、「農」というキーワードに対してさまざまな方法で研究をしている教員がたくさんいます。私も自分の狭い視野だけで考えるのではなく、さまざまな先生方の研究からアイディアや新しい視点をいただき、参考にしながら日々研究活動を行っています。
受験生のみなさんも、私たちに欠かせない「食」を支える「農」、「農」を支える「植物病理学」を一緒に学び、研究してみませんか。普段、あまり気がついていないけれど、病気で困っている植物というのは案外身近にあるもの。植物のお医者さんとして、病気を治すのが私たちの役割です。私の研究分野である「植物病理学」は、今はあまりなじみのないものかもしれませんが、一度顕微鏡をのぞき、その世界に触れてみればその面白さが必ず伝わると思っています。
そしてみなさんには、東京農業大学で過ごす時間を大切にしてほしい、充実した毎日を送ってほしいと願っています。大学で過ごす時間には限りがあり、いずれはそれぞれが別々の道へと羽ばたいていきます。教員という立場からは、勉強に注力してほしいという思いはもちろんありますが、大学時代に大切なのは勉強だけではないはずです。
せっかく縁があり東京農業大学という素晴らしい環境で出会うことができた同級生の友達や先輩、後輩、そして教職員とのつながりや絆を大学4年間だけではなく、卒業後も長く大切にしてほしいですね。
・新型コロナウイルス検査で注目されたPCR検査装置。ここでは植物に発生する病原体の遺伝子研究に利用されています。
・植物病理学の中でも、キム オッキョン先生の専門はウイルス。植物からウイルスを検出し、日々研究を重ねています。