在学生のSTORY
応用生物科学部 農芸化学科
植物生産化学研究室
西野 俊太 さん
在学生のSTORIES
応用生物科学部 農芸化学科
植物生産化学研究室
私が携わっている「栄養強化米プロジェクト」は、日本人の主食である「米」の栄養価を高め、現代人の栄養代謝を改善し、生活習慣病や鉄欠乏といった食の問題を根本から解決しようというものです。
「栄養強化米プロジェクト」がスタートしたのは、私が所属している植物生産化学研究室の先生が、鉄分が多いイネの突然変異体を探し当てたことがきっかけです。そこから栄養価が高い他の品種と掛け合わせて鉄やビタミンなどが多い「栄養強化イネ」が複数系統つくられ、およそ10年間にわたって品質を安定させる工程を経た結果、新品種の「栄養強化米」が完成しました。
この研究プロジェクトを推進するためには、とても一つの研究室の力だけでは足りず、応用生物科学部という大きな組織全体で一丸となり、開発と利用に向けて取り組んできました。まさに「食のプロフェッショナル」が集結した応用生物科学部の本領が発揮されたプロジェクトです。
栄養強化米を皆さんに食べてもらうために、これまでに動物試験によって健康改善効果や安全性を確認してきました。また、様々な米加工食品や発酵食品への応用も検討しています。私の卒業研究では、その種子を広く栽培してもらうことを目指して品種登録に必要なデータを集めています。
品種登録は農林水産省の審査基準・特性表に沿って行います。そこには最大で87個の調査項目があり、水田で育てた多数のイネの「かたち」、「色」、「大きさ」、「花の咲き方」など、品種ごとの違いを見分けるための様々な特性を正確に記録しなくてはなりません。
私の研究室では皆、生化学や分子生物学などの様々な実験テクニックを駆使し、主に実験室内でデジタルピペットを片手に作業しています。その一方、私の場合は、イネを水田で育てなくてはならず、田んぼに入って定規、ハサミ、鎌を片手に作業することが多かったです。
一口にイネといっても、様々な品種があり、それぞれ成長の速度や色が違ったり、穂の先に生えている毛の長さが違ったり、風に弱く倒れやすいもの、しっかり立つ力のあるものなど、実に様々な特徴があります。この研究を行う前は、イネはすべて同じものに見えていましたが、今では、その品種の違いがよくわかるようになりました。イネを育て観察していくなかで、洞察力が身についたようにも感じています。それは他の植物や、あらゆるものごとを見る際にも役立つものだと思っています。
品種登録の作業は地道なものですが、これがうまく進展すれば、10年前に実験室で始まった基礎研究が、実用化というゴールに達します。東京農業大学が送り出す初の水稲品種として、今後多くの水田で栽培してもらい、皆さんの健康を改善する食材になってほしいと思っています。
そもそも、農業を学ぼうと思ったのは、高校生のときに漠然と「人の役に立つ仕事に携わりたい」と思ったことがきっかけです。「人の役に立てることとは何か」を突き詰めて考えていくと、生きていくうえですべての人に必要な「食」に関わることではないかと考え、食料を生産する農業について学びたいと思うようになりました。
東京農業大学を選んだのは、農学を徹底的に学ぶなら、ここしかないと思ったからです。東京農業大学にある6学部23学科はすべてが何らかの形で食や農業に関わっていて、製品開発や企業との共同研究など、プロジェクトが盛んなところも魅力でした。
植物生産化学研究室では、植物がミネラルを根から吸収する仕組み、それらの栄養を光合成へ効率的に利用する仕組みを幅広く研究しています。これまでにない有用作物や収量の低い土壌でも栽培できる植物の開発につなげることを目指しています。最新の研究方法のみならず、どこでも必要な分析化学に関しても重点的に学ぶことができます。そうした部分にロマンを感じ、この学科(研究室)を選びました。
所属している植物生産化学研究室では、室長と呼ばれるリーダーを中心に、学生が様々な役割分担をし、協力して研究室の環境を整えています。研究で困難な場面に出会ったときも、研究室のメンバーと協力し合って進めています。私の研究では、水田でのイネの栽培が最も重要でしたが、田植えや稲刈りなどの栽培管理は一人ではやりきれず、研究室の仲間が協力してくれました。その協力なくして研究を進めることはできなかったので、本当に感謝しています。
所属する「農業サークル」では、実際に畑作業なども体験して農産物の栽培、収穫、販売までのすべての過程を経験しました。こうしたことができるのも、東京農業大学ならではです。サークル活動では、高校卒業後1年間農場研修を経て入学してきた人や、農業高校出身で農業経験が豊かな人、起業している人など、知的好奇心が旺盛な仲間と出会うことができ、それは学生生活の中でも一番の収穫です。そうした友人との出会いは、私自身の人生を考えるきっかけにもなりました。
研究やサークルなどで農業を体験し、日々の生活の中で見逃してしまうようなものにも観察の眼を向ける癖がついたことも、自分の中での大きな変化です。たとえば、道端に生えている雑草も思わず観察して、どの科の植物であるか、なんでこの時期に生育しているのかなどの探究心が芽生え、わからないことがあれば調べるようになりました。そうしたことの積み重ねによって、知識の幅が広がったようにも感じています。
卒業後は農業資材関連の会社に就職する予定です。大学で学んだ新しい品種づくりに関わっていきたいと希望していますが、どんな部署でも、「食」という人が生きるためになくてはならないものを支えるチームの一員として、自分の強みを活かしていけたらと考えています。
・大きいシャーレ内は、もち米・うるち米・黒米といった多様な栄養強化米の玄米の外観。奥の小さいシャーレは精米した栄養強化米で、ヨウ素染色によりもち性・うるち性を判定した際の実験で使用しました。
・研究室では、イネを含む様々な植物を人工気象器で栽培、管理しています。
・大学生活の中で得た収穫は、たくさんのすばらしい仲間との出会い、そして、洞察力が身についたことです。