戦争のない社会が、SDGsのすべての目標を達成するための基盤になる

佐藤 史郎 先生

生物産業学部

佐藤 史郎 先生

生物産業学部

戦争のない社会が、SDGsのすべての目標を達成するための基盤になる

戦争のない社会が、SDGsのすべての目標を達成するための基盤になる

国境を越えて人々の平和を奪う核兵器の廃絶を目指して

私は「国際関係論」のなかでも、とくに核兵器の軍縮について研究しています。唯一の戦争被爆国である日本は、広島と長崎の惨禍を二度と繰り返さないために、核兵器のない世界の実現を目指しています。しかし日本は、同盟国である米国の核の傘に、自国の安全保障を依存しています。つまり日本は「核兵器は必要ない」と考える一方で、「核兵器は必要である」とも考えているのです。なぜ、このような外交スタンスとなったのか。この問いかけが、核軍縮についての研究の出発点となりました。

 

国際社会のなかでは、核兵器だけではなく、人々の命を脅かすたくさんの要素があります。紛争やテロ、また子どもや女性への暴力も生じており、現在、5分に1人の子どもが暴力によって命を落としています。そして、差別、違法な資金や武器の取引、汚職や賄賂、政府の透明性と説明性の欠如、基本的人権の侵害などにより、多くの人が暴力にさらされています。それゆえ私たちは、暴力のない社会、すなわち平和で公正な社会を実現する必要があります。

 

しかし、平和で公正な社会を実現しようと努力をしても、戦争が起き、核兵器が使用されれば、人間社会そのものがつぶれ、それまでの努力が意味のないものになってしまいます。だからそうしたさまざまな問題を解決する前に、まず戦争をなくし核兵器が使用されない状況をつくることが、大前提になってくると思うのです。SDGsの「16平和と公正をすべての人に」を達成する実践のなかでも戦争をなくすことは、SDGsのゴールを達成するための基盤ということができると思います。

 

核兵器の使用は、核兵器禁止条約の前文で述べられているように、「破壊的で非人道的な結末」をもたらすだけでなく、「国境を越え、人類の生存、環境、社会経済開発、世界経済、食糧安全保障並びに現在及び将来の世代の健康に重大な影響を及ぼし」ます。核兵器が使用されれば、私たちの住む国際社会そのものが大きな影響を受け、その結果として、SDGsの目標を達成すること自体が困難となってしまうのです。

 

国際関係論(もしくは国際政治学)という学問は、イギリスの政治学者エドワード・ハレット・カーの言葉を借りれば、「戦争を防止するという熱い願望」によって誕生しました。戦争をなくして平和を実現するということ、それはいまの私たちにとって大切な目標ですし、また未来の世代の人たちにとっても大切です。

 

 

相手を理解しようとする姿勢が平和への第一歩になる

国際関係論では、あらゆる国々を、政治、経済、文化、社会など、できる限り多くの視点から見ていきます。ものごとは、いろいろな角度から見ると違って見えてきます。たとえば授業では、アフリカで行われている女性性器切除(FGM)の慣習や、農大のオホーツクキャンパスのある網走でも行われている捕鯨についても取り扱います。日本では鯨食は古くからある文化ですが、国際社会では、鯨は哺乳類なので食べてはいけないという考え方もあり、異なる価値観の間で衝突も起きてきます。そうした衝突が起きた際には、異なる意見、異なる価値、異なる利益の人たちの間で、いかに意見を一致させるかがポイントになります。

 

これは国際関係だけではなく身近な人間関係でも言えることですが、まず一歩立ち止まって、相手が「なぜこういうことを言っているのだろう」と耳を傾けてみることです。すると、こちらが絶対的に正しいと思っていたことが、実は間違っていたと気づくことがあります。人の価値観とは、実に多様です。だから価値観をめぐる問題に関しては、「絶対にこうだ」と断定することはできないです。

 

多角的な視点をもって人やものごとを理解しようとする姿勢は、国際社会で生きていくためには、なくてはならないものです。農業分野においても、もちろんそうです。たとえば東京農業大学ではアフリカに留学して農業支援を行う学生もいますが、その際にも、アフリカの紛争や貧困、ジェンダーの問題を知っているかどうかで、現地の人たちとの関係性がまったく違ってくるはずです。

 

これから大学生となるみなさんには、大学生のうちに国際社会にとりあえず出ていって、いろいろな体験をしてほしいですね。とくに東南アジアなどで自分たちを同じような年齢の人たちが、どういう価値観で生きているのかを見てみると、世界の見え方がガラッと変わってくると思います。

 

 

 

日本が抱える外交や安全保障をめぐる問題については、書籍にもまとめています。

国際関係論は、戦争をいかになくすかを究極の目的とする学問です。政治、経済、文化や宗教、貧困問題など、あらゆることを絡めて考えていく必要があります。

Profile

佐藤 史郎 准教授

生物産業学部 外国語研究室

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